冷え症とは
冷え症について
「冷え症」という認識は東洋人特有のもので、東洋医学では、「冷え」を重大な身体のバランスの乱れによる病気として捉えています。体温計の無い時代から五感に基づく相対性診断により、冷えを病気の前駆症状(未病)ととし、治療対象としてきました。
西洋医学では、冷えを客観的な体温の低下を意味し、「冷え症」は冷えに対する過敏な性格ととらえ治療法も少なく、あまり認識されていません。
そもそも「冷え」とはどのような状態なのでしょうか?
それは、「多くの人が寒さを感じない程度の温度で、手や足、下半身、腰などの体の一部、もしくは全身が冷えており、つらいと感じている事」です。
そしてこの状態を「ひえしょう」と言います。
「ひえしょう」は2つの漢字で表される事をご存知でしょうか?
それは「冷え性」と「冷え症」です。
1997年北里研究所東洋医学総合研究所で、日本初の「冷え症外来」を開設した当時は「冷え性」
という表現が一般的でした。
西洋医学では「冷え」は病気と捉えてはおらず、冷え性=冷える性質、つまり「冷えは体質だから、しかたがない」と思われていました。
しかし、東洋医学では「冷えは病気のサインである」と考えられ、病気ではないけれど不調を感じるような病気の前段階を未病ととらえ、冷えは未病の最たるものとされています。
そこで、「冷えは病気の原因になる」という意味を込め、「症」という字を使っているのです。
最近では「冷え症」という表現も一般的になり、それだけ「冷え」で悩んでいる人が多いということがわかります。
なぜ冷えるのか
日本には四季があり、季節によって気温は変化します。
私たちの体は優れもので、基礎代謝の量を変えることで、体温調節をして気温の変化に対応しています。
しかし、これらを狂わせる「冷え」のきっかけは1年中潜んでいます。
- 春 ・・・ 1年で一番寒暖差が激しく体を冷やしやすい
- 夏 ・・・ 暑いはずの夏も冷房の影響で体は冷え冷え
- 秋 ・・・ 夏の冷房で冷え切った体に寒暖差が追い打ちをかける
- 冬 ・・・ 本格的に寒くなる季節で朝から晩まで冷える
これらは全て、体温調節機能を乱す外からの「冷え」です。
冷房や暖房器具は、私たちの生活に必要不可欠な物です。しかしその快適さが「冷え」の原因となり、体温調節機能を狂わせています。最近では冬の冷えよりも夏の冷えのほうが大きな問題と言われています。
夏は血管を広げ、熱を放散するようにしてバランスをとるようになっています。
そして汗をかき、毛穴も広がっています。そこに冷気が直撃すれば、体は熱を奪われ、冷えがどんどん入り込んでしまいます。その一方で太陽が照りつける外に出れば熱気が体を襲います。
1日のうちに、夏と冬の気温を交互に体感するような事も起こり、それに合わせて血管や汗腺も収縮と拡張を何度も切り替えなければならなくなります。
これにより、体温調節機能が狂ってくるのです。
その一方で冬は暖ると冬はエネルギーを静かに蓄える時期と考えます。
冬は適度に寒い方が体によく、寒さによって身を引き締める事で、力強いエネルギーが育つと言われています。冬の体は血管を縮め、熱が外に逃げるのを防ぐようになっているのです。
過度な暖房は自律神経を乱す事になり、体温調節機能がうまく働かなくなってしまいます。
そして、食べ物や飲み物などの口から入ってくる「冷え」も体温調節機能に大きく影響しています。飲み物は、年間を通して井戸水くらいの冷たさ(14~15度)が体に入ってよい最低の温度だとされています。
しかし便利になった現代では、1年中どこでも冷たい飲み物をすぐに飲めるようになりました。
家でも水、お茶、ジュース、ビールなど多くの飲み物を冷蔵庫で4~5度くらいに冷やして飲まれています。
井戸水と比べて、その差10度。
この10度の差が体を内側から冷やしていく原因となるのです。
また、偏った食生活、ダイエット、甘いもの(砂糖)、運動不足なども冷えの原因となります。冷暖房、冷蔵庫・・・便利になったぶん、「冷え」への影響が増していると考えられます。
先ほどから「冷え」へは体温調節機能が大きく影響しているとお話してきましたが、体の中ではどのようなことが起こっているのでしょうか?
私たちの体には、37度前後の体温を維持する体温調節装置が備わっています。
例えば、外気温が下がり寒くなると、皮膚にあるセンサーはこの情報をキャッチして脳にある体温調節中枢に伝えます。
これを受けて体温調節中枢は、体内でつくられる熱の量や放出する量を調節します。
このように脳へ情報を運んだり、脳からの指令を伝えて血管などの体の機能を働かせたりしているのが、自律神経です。
暑い時と寒い時では自律神経の働きが変わります。
自律神経は体中に張りめぐらされていて、オンとオフを切りかえながら体の機能を調節しています。「冷え」に長年さらされ続けていると、自律神経の働きが乱され体温調節機能が狂ってしまい、さまざまな不調を引き起こしてしまいます。
西洋医学的な冷えへのアプローチ
温熱生理学的に言えば、体温は脳や内臓の機能を維持し生命を守るためのホメオスターシス維持機構により常に一定に保たれています。通常、私たちは冷えや寒さを感じると、温かい所に移動したり、身体を暖めたりして体温の低下を防ぎます。これを行動性体温調整と言います。こうした行動が妨げられる場合に冷えを感じます。一方、体内では熱を①産生し、②運搬し、③放散する過程において体温は常に一定に調節されています。これを熱の出納といいます。
冷えの原因となる熱の出納上の問題
- 産熱量の不足
体温を維持するのに必要な熱は、基礎代謝、食事摂取、筋運動、ホルモン作用などにより体内で産出されます。このうち、基礎代謝による熱の50%は肝臓・腸・腎臓などで産出されますが、ダイエット、栄養不良、偏食などによる食事摂取量低下や、胃腸障害などによる消化吸収障害があると熱産出は減少します。また、安静時の筋による産熱は全体の20~40%にすぎませんが、激しい労働や運動時には筋収縮により80%になります。そのため、女性の骨格筋総量が男性より少ないことが、女性に冷え症が多い理由の1つに挙げられています。さらに運動不足であれば当然熱産出は減ります。
一般的に急激な寒冷にさらされると骨格筋の不随意な周期的収縮(10hz)により熱量を一気に50%増加させる「ふるえ熱産生」が起きます。また、気温の低下や冷房などの寒冷刺激で交感神経が刺激されると、甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン)が分泌され、褐色脂肪組織で熱が産生されます。(非ふるえ熱産生)。
よって、甲状腺機能低下症などでは産熱反応の低下により体温も低下しやすくなります。 - 熱の運搬障害
体外から流入した熱や体内で産生された熱は、血管の中を流れる血液とともに全身に供給され体温が維持されます。脳は体温を調整する中枢として、心臓は熱を送るポンプとして、血管は熱を供給するポンプとして、そして自律神経は心臓と血管を調整するために重要です。そのため、血管収縮性交感神経過敏反応による皮膚血管収縮、心不全などによる心機能低下、動脈硬化による血管狭窄など、動脈系の異常だけでなく、脳卒中や外傷などによる体温中枢の障害、さらには筋拘縮(凝り)などによる静脈血流低下など熱の運搬と調節障害が冷えの様々な原因となります。 - 熱の放散過多
体温を一定に維持するため、体内の余剰な熱は血流や発汗により皮膚から外に放散されます。寒冷時には交感神経の皮膚血管収縮反応により皮膚血管は収縮し、熱の漏出を防いでいます。しかし、副交感神経優位な体質や慢性的なストレスにより血管収縮性交感神経反応が低下していると、熱は過剰に放出され、体温は低下します。皮下脂肪組織が少ない高齢者や痩せた人や保温力の低い乾燥肌の人などでは、熱は外に漏れやすくなり冷えの原因になります。
また、過剰な飲料摂取や精神性発汗などによる発汗過多で皮膚冷却が起こる場合も熱が失われ、冷えや体温低下の原因となります。
東洋医学的な冷えへのアプローチ
東洋医学で冷えの診断と治療に重要な要素は、「陰陽」「寒熱」「虚実」「五臓」「気血水」です。
臨床的には、「陰」は新陳代謝の低下して状態、「陽」は盛んな状態を示します。
寒は陰、熱は陽の一病態でもありますが、臨床的には寒は顔色が蒼く体が冷え基礎代謝が低下した状態、熱は顔や体が赤く熱を帯び基礎代謝が高い状態を示します。
また、虚は抵抗力の衰えた状態、実は抵抗力の充実している状態以外にも、健康を乱す病気にあふれた状態の意味があります。
五臓とは、肺、腎、肝、脾、心の臓器とその機能を表し、腎虚、脾虚などのように表し、その虚実を判定します。
「気血水」は、古代中国医学の気血理論をもとに、江戸時代に吉益南涯が生体の異常を3つの生理的因子で説明するために考案した理論ですが、漢方医学では、診断や治療を気血水や五臓理論に基づき行う事がおおいようです。
これらの要素のうち冷えにおいては、寒熱と気血水による診断を併せて行う事が重要です。
「気血水」による冷えの捉え方
- 「気」の異常による冷え
気の異常には「気虚」、「気滞」、「気鬱」、「気逆」という4病態があります。「気虚」とは、気が不足した状態、「気滞」は気が滞った状態、「気鬱」は気持ちが塞がりうっ積する状態、「気逆」は気の逆上や上気する状態を示します。気滞では、咽喉部閉塞感(梅核気、咽中炙れん)と腹部膨満など、気逆では、イライラやのぼせとげっぷなど、精神的な要素と気体的要素が含まれます。
気虚、気滞、気鬱では熱産生不足や自律神経バランスの乱れなど体温調節障害による冷えを起こしやすい。また、気逆ではのぼせなど上半身の熱性の症状と同時に下半身の冷えを伴う場合もあります。 - 「血」の異常による冷え
血の異常状態には、「血虚」と「瘀血」の病態があります。
「血虚」は、血の不足による機能障害に起因し、貧血や血行不良などの病態、「瘀血」は血が滞る病態を示し、口中は乾燥するが水は飲みたがらない口乾や疼痛などの症状を伴いやすくなります。特に瘀血は診察上、望診による皮膚や舌の所見、脈診や腹診における所見から判断することも多くなります。
現代医学的には、血の異常は、貧血、血小板凝集、赤血球連銭形成、血管収縮などにより生じ、瘀血では、毛細血管での血流停滞や停止による微小循環障害が起き、これにより冷えを引き起こすと考えられます。また、脱水は瘀血を増長させます。 - 「水」の異常による冷え
「水」とは、「血」のうち血液と分離された一般体液を示し、水の異常状態には、水が身体の一部に停滞・偏在した病態の「水滞」と、水分代謝障害による「水毒」があり、その発生には寒と温が重要とされています。水滞と水毒はともに、体液の量や分布の異常を示す病態で、めまい、立ち眩みなどの症状を伴うことも多いようです。現代医学的には、静脈やリンパ管の閉塞と停滞、腹水や浮腫など血管外組織(サードスペース)の体液貯留など細胞外水分量の増加だけでなく、細胞膜の透過性破綻などによる細胞内水分量の増加などによる病態も含むと考えられます。むくみなど体液バランスの異常が原因で冷えを起こすこともあります。